どうして安心なのかわからず、最愛はじっと古霜先生を見る。

「少なくとも、名波が好きになる男は今はいないということなら、俺にチャンスはあるってことだろ?」
「ありません」

 そんなチャンスはどこにもないことを言っても、彼の耳には届いていない。

「チャンスを無駄にしない。今でなくても好きだと言わせる」
「そんなこと、聞きたくないです・・・・・・」

 どこからそんな自信が出てくるのか、最愛には理解できなかった。古霜先生を嫌う人がいないから、いつか心を奪えると言いたいのかもしれない。
 ただ単に生徒をからかっているだけ。あの頃の自分はそれだけしか考えていなかった。


「こんな手紙をもらっても・・・・・・」

 翌日、図書室で一通の手紙を読んでいた。昼休み、靴を履き替えようとしたときに手紙が挟んであった。人前で読めなかったので、放課後に選んだ。差出人の名前が書いてあったが、知らない人だった。
 これはラブレターで相手が待っている時間と場所が書かれていたが、行く気になれず、手紙を鞄に入れた。相手には悪いが、この手紙は後で処分することにした。
 鞄のチャックを閉めたときに名前を呼ばれて振り返ると、角重苺果(かどしげいちか)がスライド式のドアを開けた。この先生は美人で男子に人気の先生で、誰もが注目する。

「本を借りに来たの?」
「いいえ、先生は返しに?」

 角重先生は本を左手で持って、右手でドアを閉めながら頷いてから、図書委員に本を渡してから、最愛の向かいの席に座った。

「誰かを待っているの?」
「いえ、誰も待っていません」