全ての授業が終わって、帰ろうとしていたときに呼び止められた。
 歩いて距離を縮めてくる古霜先生から離れたくてたまらなかったので、挨拶だけして帰ろうとすると、手を掴まれた。

「・・・・・・何ですか?」
「会いたかったから」

 これを言われた女性達だったら、さぞ骨抜きになっていただろう。
 だけど最愛は彼女達と違うので、そんなことにはならない。

「私はこれから帰るんです」
「その傷は何だ?」

 膝を見て怪訝そうな顔になり、最愛を責めるように見てきた。

「転びました」
「保健室に・・・・・・」
「もう手当てはしました」

 沈黙ができたので、古霜先生に背を向けて一歩前へ踏み出すと、後ろから抱きしめられた。

「誰かに見られたらどうするんですか!?」
「大丈夫だって」

 さらに力を強めてくる古霜先生が怖く、逃げ道を必死で見つけようとした。

「ふざけないでください!」

 抗えば抗うほど、こっちが不利になっていく。
 どうして急にこんなことを始めたのか、頭が混乱した。

「やめてください! 私、帰ります!」
「俺に冷たくないか?」

 最愛は特別な関係ではないことを強く言い放った。

「違うのか?」
「違います」

 自分でもわかるくらいにはっきりと言った。
 
「お前だから、俺は特別だと思えるんだ」
「何を言っているのですか・・・・・・?」

 本当に頭の中がぐちゃぐちゃしている。古霜先生のことでこんな風に自分が乱されていると本人が知ったら喜ばれそうだったので、口を閉ざした。

「何か言ってくれないか?」
「先生に何も言うことなんてありません」

 せめて言うなら、もうつきまとわないでほしかった。