この気持ちをあなたに伝えたい

「おはよう。最愛」
「おはよう。深香」

 後日、いつものように最愛と深香は挨拶を交わした。

「今日も女子達がほとんどいないね。どこにいるかはわかるけど、みんな好きだよね?」

 最愛はあの出来事のせいで、古霜先生を信頼することができなくなった。

「もっと違うことをすればいいのに・・・・・・」
「本当に!」

 女子達は化学室にいる。玄関から左へ行けば、各クラスの教室があるのに、女子達はその反対方向へ行く。化学室は体育館の近くにあるので、体育の授業が終わった後にも女子達がそこに集まる。
 深香の話題から話を逸らそうと口を開きかけたときに深香はドアの向こうを見た。振り返ると古霜先生がそこにいた。

「おはよう」
「おはようございます」
「どうしたんですか? 女子から避難して来たのですか?」

 わざわざ教室に来るなんて、他の場所を選んでほしかった。
 深香の質問に古霜先生は笑顔を浮かべている。昨日したことなんてこれっぽっちも記憶に残っていないような顔。

「違う。そんなことをしないよ。実はこれを届けにな・・・・・・」
「どうして?」
「昨日咳をする度に飲んでいただろう? おまけに忘れていたから」

 渡された水筒はもう使いたくなかった。これがあると余計に昨日のことを思い出してしまいそうだったから、捨てることに決めた。汚れがついている上にボタンの押しが悪かったからちょうどいい。

「また具合を悪そうにしていたら、休ませないとな・・・・・・」
「わかっています。最愛、我慢をしたら駄目だからね?」
「うん・・・・・・」

 余計なことを言った古霜先生を最愛は睨みつけた。

「おっと、そろそろ行くな」

 他の女子達が廊下で騒ぎ始めているので、古霜先生は踵を返して、長い廊下を歩いて行った。