カーテンを少し開けようと手を伸ばすが、それすら掴むことができず、ドアの閉まる音を耳にしながら二度目の睡眠に入った。
　保健室がさっきより賑やかな声に包まれているので、目が覚めた。カーテンが閉め切ったままだったので、現在の時刻がわからなかった。

「先生、いつになったら遊んでくれるの？」
「用事で片づけるなんてひどいよ！」

　知らない女子達の声が聞こえたので、その声の大きさに耳を塞いだ。

「そうだよ、どっか行こうよ！」
「お願い！」
「いいでしょ？」

　女子達は先生の服をぐいぐいと引っ張って、何度も遊びに誘う。

「静かにしてくれ。具合が悪い子がいるから」

　昼休みや放課後など、自由に行動できる時間は多数の女子達が化学室を憩いの場として利用する。
　理由はこの学校の化学の先生である古霜圭（ふるしもけい）が関係していて、彼は初対面の人でもすぐに仲良くなれる性格の持ち主だ。
　彼を狙う女子は数え切れないほどいるくらい人気が高い人物。学校を含む、他のところへ行っても女性から声をかけられることは何度もあるに違いない。

「先生、彼女はいないんでしょ？」
「いないよ」

　ほんの一瞬、間があったことに最愛は違和感を感じた。
　だけど、女子達はそれに気づくことはなかった。

「お願い、少しだけでいいから」
「私達の相手もしてよ」
「楽しいよ！」

　女子達は諦めず、何とか誘いに乗せようとしている。

「大人しく帰らない悪い子なら、もうここへ入れることはできないな」

　それを聞いた女子達は声を震わせた。

「冗談・・・・・・だよね？」
「変なことを言わないで・・・・・・」
「いや、冗談じゃない」
「そんな・・・・・・」