「何か嫌なことでもあった?」
「いや、何も・・・・・・」

 ただ、思い出してしまうだけ。最愛が思い出したくない高校生活のことを。

「最愛、礼雅さんに言ったらどう?」
「何をだ?」
「高校のときのことを」

 礼雅は高校の頃の最愛を知りたいだけではない。ときどき嫌なことを思い出す度に苦しそうに胸や頭を押さえる最愛を何度も見ているから。
 悩み事があるときは誰かに話を聞いてもらうとすっきりする。そんなことをよく聞くが、話したとしても、何も変わりはないだろう。

「最愛が何を話しても礼雅さんだったら、大丈夫だと思うよ。傷つけるようなことはしない」
「信頼しているんだな」
「当然」

 会ったことだってないのに、どうしてここまで信頼を寄せることができるのか、不思議だった。

「信頼しているよ」
「どうしてだ?」

 疑問をぶつけると、美鈴はにっこりと笑った。

「だって最愛が信頼していないように見えないから」
「美鈴・・・・・・」

 最愛が美鈴に話しかけようとしたとき、店内に複数の女達が入ってきたので、最愛と美鈴は店から出ることにした。

「礼雅さんに添い寝でもしてもらったら?」
「ちょっ! いきなり何を・・・・・・」
「寝不足も何とかなるかと思って。じゃあね!」

 美鈴はタイミング良く来た電車に乗って帰った。
 その夜、そのことを礼雅に自分が悪夢に魘されているせいで不眠症になっていることを話した。

「それで今晩はここで寝ようと?」
「そうじゃない」

 最愛が否定しても、礼雅には通じない。

「いいぜ、おいで」
「だから違う!」