「長々と何を話していたんだ?」
「何だろうな?」

 最愛が質問しても、礼雅ははぐらかして終わりだった。何度質問しても無駄だと悟った。鞄を手に取り、帰る準備をしてから上の階へ帰ろうとすると、礼雅が呼び止めた。
 振り返ると、最愛の携帯電話をまだ礼雅が持ったままだった。

「・・・・・・返せ」
「俺が何も言わなかったら、そのまま帰っていたんだろうな」

 携帯電話を受け取り、玄関まで移動した。靴を履くと、最愛の目の前に礼雅がDVDを見せた。

「もういいのか?」
「一回観たら満足だ。でも、やっぱり本人に渡すか。俺も上に行く」
「別にそれくらい・・・・・・」

 話し終わる前に最愛は礼雅に押されて、礼雅が靴を履き出した。ポケットから鍵を出してかけてから、エレベーターに乗ろうとしていて、それを見た最愛は声を荒げた。

「どうしてそっちへ行くんだ?」
「俺は方向音痴じゃないんだ。他にどこへ行けと?」

 礼雅は上の階へ行くボタンを押して、エレベーターを待つ。階段で一階から七階まで上がることはしんどいが、六階から七階はそんなに体力を使わない。

「階段を上ればいいだろ?」
「これに乗るんだ」
「私は階段で七階へ行く」

 最愛が階段へ向かおうとしたとき、エレベーターが来た。その音に足を止めると、礼雅が口角を僅かに上げた。

「最愛、俺が先にお前の家に着いたら、俺の言うことを聞けよ。俺が負けたら、お前の言うことを聞いてやる」
「おい・・・・・・」

 振り返ったときにはもう遅く、礼雅が手を振っているところを一瞬だけ見た。最愛が急いで階段を上り、自分の家まで走ると、礼雅が家の前で立ち塞がっていた。

「遅かったな」
「いきなりあんなことを言うな」