トントン拍子に話がまとまって、今日から直季と鈴丸は恭平のマンションで暮らすことになる。
「わぁ…ひろーい!」
大はしゃぎの鈴丸を微笑んで見ながら直季も部屋に入る。
「じゃあ…これからよろしくお願いします。」
「ん、こちらこそ。あ、鈴丸。そこ、使ってない部屋片付けといたから使って。」
「ありがとう!」
恭平が指さした部屋に鈴丸がぱたぱたと入っていった。
「…で、直季はこれ書いて。」
と言って渡されたのは婚姻届。
「…ねぇ、本当にいいの?」
「何を今更。今度親にも会ってもらうから。」
「ええっ」
「ほらペン。」
ボールペンを渡されて、婚姻届に記入していく。
「…はい。」
「さんきゅ、奥さん。」
「うっ…お、奥さんて…。」
機嫌がいい恭平に困惑しながら並んだ二つの名前を見つめる。
「さて…じゃあ荷物片付けるか。」
「そうね。」
もともと荷物が少ないので、引っ越す時にいらないものを処分したらダンボール3つにおさまった。
「うっそお前もの少なすぎだろ。」
「お店で必要なものはあっちに置いてあるし…こんなもんじゃない?」
「だって服とかもっとないのか?」
夏用の服が2つに冬用の服が2つ、それと寝間着、あとは制服とエプロン。
「いつも制服だし。そんなに着ないし。」
「それにしたって…。」
納得がいかない様子の恭平を放っておいて片付ける。
「これはここ置いていい?」
「ん、いーよ自由に使って。」
ものが少ないのですぐ片付くかとも思ったが、やはりそれなりに時間はかかった。
「わ、もうこんな時間。夕飯の支度しなくちゃ。」
「あ、わり。うち台所器具ないんだわ。」
「へ?」
驚いてキッチンを見ると、確かに何もない。
果物ナイフひとつない。
「嘘…普段どうしてるのよ?」
「コンビニとか、スーパーのお惣菜とか?」
「信じられない。」
驚きすぎて真っ白になっている直季に苦笑いして提案する。
「とりあえず今日はどっか食べに行こうぜ。」
「…そうね…。」
3人でファミレスに入って、食事を済ませた。
「ふぁあ…。」
帰りの車で鈴丸が大きなあくびをする。
「眠い?」
「うん…。」
直季がかくんかくんと揺れている鈴丸を自分の方に引き寄せて髪を撫でる。
「…寝ちゃったか。」
「寝ちゃった。」
愛おしそうに鈴丸を見つめる直季をミラー越しにちらりと見る。
何も言わず、静かに夜の道を走った。
「着いたぞ。」
「ありがとう。鈴丸起きて。」
「んん…。」
「鈴丸。」
「あぁいいよそのまま寝かせといて。」
「でもこのままじゃ…」
直季が困っていると、ひょいっと恭平が鈴丸を抱えあげた。
「あ、車の鍵かけといて。」
「…うん。」
その様子を見つめながら、直季が鍵を受け取った。
鈴丸を部屋のベッドに寝かせて、電気を消す。
「ありがとう。」
「いえいえ。風呂、先入って来いよ。疲れただろ。」
「え、いいよ後で。」
「いいから。」
直季を風呂場に押し込んだ。
窓をあけてタバコを吸う。
ったく遠慮ばっかしやがって。
いつもふてぶてしいくせに。
アイツはもうちょっと人に頼るスキルを身につけた方がいいな。
タバコを片付けて、書類を読んでいると風呂から上がった直季が来た。
「お風呂ありがとう。」
「ん…。」
初めて見た、風呂上がりの濡れた髪が顔にかかっている直季が、なんとなく見てはいけないような気がして目を逸らす。
「…髪、ちゃんと乾かせよ。」
「うん。」
「俺も風呂入ってくる。」
直季が髪を拭いて、ドライヤーで乾かしていると、ぱたぱたと紙の音がした。
「あ。」
ドライヤーの風に煽られて恭平の書類が音を立てていたようだ。
飛ばないようにおもしを置いて、再び髪を乾かす。
なんか、やっぱり変な感じ…。
今まで鈴丸以外に家に人が居たことなかったから。
「…。」
恭平は何を考えているんだろう。
結婚…結婚、か。
…もしかして、そういうこと…?
