「あ、おかーさんおかえり!」
「…ただいま、鈴丸。」
階段を上がる音が聞こえたのか、鈴丸が出迎えてくれる。
「何してたの?」
「んー…宿題してたけど…。…マンガ読んでた。」
「そっか。」
ちょっと罪悪感を感じている顔が面白くて笑う。
「お母さんお化粧落としてくるね。あとその後…」
「?」
「…ちょっと大事な話があるから、部屋で待ってて。」
「…うん。」
直季の様子に何かを察したのか、こくりと頷くと部屋に戻った。
メイクを落として、セットした髪を崩し、いつものように後ろで結ぶ。
「…よし。」
鈴丸が一度でも嫌と言ったら、断ろう。
そう心に決めて鈴丸の部屋に向かう。
「鈴丸。ここ座って。」
「うん…。」
鈴丸を正面に座らせて、じっと見つめる。
「…鈴丸、あのね…。」
「…なあに?」
「…お父さん、来たら…嬉しい?」
「…?」
鈴丸が首を傾げる。
「おとーさんはお空にいるんでしょ?」
「…そう。そうなんだけど…。そうじゃなくて…。」
あぁもう。
こんなふうに話してこんな小さい子がわかるはずないでしょ!
「…もし、もしね?…恭平おじさんが、お父さんになったら、鈴丸はどう思う…?」
「恭平さん…?」
ますますわからない、というふうに困った顔をする。
「僕、恭平さんと暮らすの?」
「うん。」
「…おかーさんは?」
恐る恐る、といった様子に慌てて答える。
「もちろんお母さんも一緒。いや?」
「ううん!」
ぎゅっと鈴丸が直季に抱きつく。
「おかーさんがいるならいいよ!恭平さん優しいし、僕好きだもん!」
「…そう。そっか…。」
ぎゅうっと鈴丸を抱きしめる。
「おかーさんと恭平さんは、結婚するの?」
驚いて腕の中の鈴丸を見る。
「だって、おとーさんとおかーさんは夫婦なんでしょ?で、恭平さんがおとーさんになるってことは、恭平さんとおかーさんが結婚して夫婦になるってことだよね?」
「びっくりした。鈴丸は頭がいいね。」
「えへへ。」
鈴丸が得意気に笑う。
「僕、恭平さんと暮らすの、楽しみだな。」
「そう…。」
鈴丸の頭を撫でて、背中をポンポンと叩いた。
「わかった。ありがとう鈴丸。」
「んん?」
「ううん。」
安心したからか、疲れていたからなのか、直季は鈴丸を抱きしめたまま眠ってしまった。