「おかーさんただいまー!」
はつらつとした声が聞こえ、後ろを振り返る。
「おかえり鈴丸!学校は楽しかった?」
「うん!」
にっこり笑う鈴丸の頭を撫でる。
「ランドセル置いてくるね!」
「うん。」
階段を上がって、2階が普段生活している空間だ。
そのまま鈴丸は小さなエプロンをつけてパタパタと降りてきた。
「お手伝いすることある!?」
「ん、んー…じゃあね、テーブル拭いてきてくれる?お母さんは窓拭くから。」
「うん!いいよ!」
嬉しそうに返事をする鈴丸に布巾を渡す。
鈴丸も帰ってきたし、そろそろ商店街の人達が来るかなぁ…。
と、考えていると、鈴丸が直季を呼んだ。
「おかーさん。」
「なーに?」
「今日も恭平さんと仁菜さんいたの?」
「ん?うん。どうして?」
「恭平さんのタバコの匂いがするから。」
「えっ」
慌てて窓を開ける。
気にしない人もいるが、タバコの匂いが嫌いな人も多いのだ。
「ごめんごめん窓開け忘れてた。ありがとうね鈴丸。」
「ん?うん。」
何に対してのお礼かわからなかった鈴丸が首を傾げながら返事をする。
「僕は恭平さんの匂い、好きだよ。」
「…そうなの。」
ピタッと窓を拭く手が止まり、すぐにまた動かす。
「うーんやっぱり汚れてるのは外かなー。」
「窓?」
「そう。」
「僕が拭く!テーブル終わったもん!」
ほら、とピカピカのテーブルを指さす。
「わ、早いね。助かるなぁ。じゃあさ、そろそろお客さんたち来ると思うから、いらっしゃいませしてくれる?」
「うんわかった!」
鈴丸が外に出て、窓ガラスを拭く。
手を洗っていると、ガラスの向こうからにへーっと笑いかけてきて、微笑みを返す。
「鈴くん精が出るねぇ。」
「あっいらっしゃいませ!」
床屋のおじさんが鈴丸に挨拶しながら店に入ってくる。
「いらっしゃいませ。」
「おお直ちゃん、いつものね。」
「ブレンドですね。」
にこっと笑ってカップとソーサーを取り出す。
「今日はたい焼き屋のご主人は?」
「あーそのうち来るってさ。サボリすぎだってんで、奥さんに怒られたらしいよ。」
「あらら。」
「まぁすぐ目を盗んでくるんだけどね。」
カランコロン
「こんにちはー。おっ直ちゃん今日も美人だねぇ。」
「…。」
床屋のおじさんと目を合わせて笑う。
「噂をすれば、だ。」
「奥さんに怒られません?」
「あ、こら直ちゃんに余計なこと吹き込むんじゃないよ。」
たい焼き屋の主人が床屋のおじさんを叩くふりをする。
「大体そっちだって嫁さんに黙って来てるんじゃないか。」
「おれんとこはいいのよ。店の主人はおれじゃなくてアイツだから。」
飄々としている床屋のおじさんの様子にクスクスと笑う。
「ブレンドです。熱いのでお気をつけて。」
「おーうこれこれ。いい香りだねぇ。」
「あっ!直ちゃんオレも同じの!」
「はーい。」
コーヒーを入れていると鈴丸が戻ってきた。
「おかーさん終わったー。」
「ありがとう鈴丸。」
手を洗う鈴丸に直季がタオルを渡す。
「偉いねぇ鈴くんはお母さんの手伝いして。」
「よし、そんな鈴くんにチョコチップクッキーを御馳走してあげよう。」
「あ、じゃあオレからはホットミルク。」
「ホント!?やったぁ!」
「え、いいですよそんな…。」
「まあまあ!おれらがやりたくてやってんだから気にしなさんな。」
豪快に笑う床屋のおじさんに急かされてクッキーとミルクを出す。
「ありがとう!!」
「うんうん。よく噛んでな。」
「直ちゃんにはいつもサービスしてもらってるしねぇ。」
「ありがとうございます。」
その後、二人の奥さんが二人を連れ戻しに来て、奥さんも交えてまた少し団欒して、帰っていった。
