藤村に結婚をバラしてからというもの。



「へーあの人が柊課長の…」


「高校時代からの付き合いらしい…」



カフェは、“柊課長の結婚相手”を一目見るべく賑わっていた。



嬉しいのやら困るやら…。


つかアイツ会社で有名なのか。


なんでこんなに来るんだ。



「へー課長は可愛い系より綺麗系だったのか…。」


「ばっかお前、結婚相手を見た目で選ぶわけねぇだろ。あの課長を結婚する気にさせたんだからなんかすげぇ…なんかがあんだよ。」



なんかってなんだよ。



つーかあの課長って…。


…結婚するような気配が、全くなかったってことか?



「あーおっぱい大きいですもんね。」


「だからそういう見た目の話じゃなくて…もういいや。ダメだお前。」



一人の男が後輩に恋愛観を説明するのに諦めた頃。



「…何だ?すげー賑わってんな。」


「っ!課長!」


「課長!」


「え?お前らなんでこんなとこにいんの?」


「こんなとことは何よ?あと藤ちゃん…。」



藤村が申し訳なさそうな顔をする。



「ごめんなさい…一人に話したらあっという間に広がっちゃって…。」


「…そう。まぁもういいわ…。」



結果的に大盛況なわけだし…。



「はい、ロイヤルミルクティーね。恭平は?」


「ブルーマウンテン。」


「はい。」



カップを取り出して、コーヒーを入れる。



「恭平って言った…。」


「言ったな…。」



ひそひそと聞こえる声に眉を寄せる。



「…失礼しました、お客様。」


「あぁ、お前に様付されんのもなかなか気分いいな。」


「くっ…!」



ほぼ元凶である藤村が直季と恭介の様子をオロオロと見守っている。



「…おいホントに新婚なのか?全然仲良さそうに見えないぞ。」


「いやそのはずなんだけど…。」



野次馬たちも焦り始める。



「ブルーマウンテンです。どうぞ、ひ い ら ぎ さん。」


「結婚後はお前も柊だから。」


「は?嫌よ。あんたの苗字になるなんて絶対嫌。」


「夫婦別姓が認められてないんだから仕方ないだろ。」


「じゃああんたが西村になれ。」


「嫌だ。」


「も、もう止めましょうよぅ…!」



ギスギスに耐えられなくなった藤村が声をあげる。



「…。」


「…。」


「ああああ…。」



言い争いは止まったが今度は無言。



「もうー!なんで新婚なのにそんなに仲悪いんですかぁ!」


「…。」


「だんまりやめてください!」



大人気ない二人を相手にしている藤村を他の社員たちががんばれと応援しながら見守る。



「あ!そうだ、家族3人水入らずで旅行でも行ったらどうですか?ちょうど今週末3連休ですし!」


「え?3連休だったっけ?」


「はい、10.11.12とお休みですよ!」



ピクッと直季の指が震えた。



「…。」



そしてじっとカレンダーを見つめると、磨いていたカップを置いた。



「…お砂糖、持ってこなくちゃ。ちょっと2階行くね。」


「え?直季さん…。」



突然様子の変わった直季に、藤村が不安そうに恭介を見つめる。



「お砂糖…この前取りに行ったばかりなのに…。…あの、私なにかまずいこと言いましたか…?」


「ん…いや…。」



一度口を噤んで、まぁいいか、と藤村を見る。



「12日は…月命日なんだよ。アイツの元恋人で、鈴丸の父親の。」


「え…。」


「だからアイツは毎月12日は店休んで、墓参りに行ってんの。8年間、一度も欠かさずに。」



飲み終わったコーヒーのカップをソーサーに戻す。



「…直季さん、恋人を亡くされてるんですか…。」


「…そういうこと。」




それも…婚姻届を役所に提出しに行く時に事故に遭ったから、恋人っていうよりも、夫に近い相手を。



「…触れられたくないことだろうから、俺が喋ったっていうの、内緒な。」


「はい…。」


「んな顔すんな。お前が悪いわけじゃねぇんだから。俺が喋ったってバレバレだろが。もっと明るくしろ明るく!」



わざとふざけた口調でいう恭平に、藤村も笑顔を浮かべた。



「直季!俺らもう戻るからお会計してー。」


「あぁごめん!」



ばたばたと砂糖の袋を抱えて直季が2階から降りて来た。



「720円です。」


「ん…うわ10円玉ないわ。千円で。」


「はい、280円のお返しです。」


「また明日来ますねー。」


「うん、ありがとう。」



手を振って、別れた。