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「おい、クロスを切るな」
それはあの手術が行われてから数年経ったある日。
いつかのように(和式の)墓前で十字を切る兄と、それに腹を立てる弟の姿がそこにあった。
「うるさいなー… お前、柔軟性に欠けすぎだよ」
そうぼやく彼に欠けているのは間違いなく社会性だろう…
「郷に入っては郷に従えよ?」
「誰だよ、ゴウって」
何年経ってもやっぱり、こいつはアホだと開いた口が塞がらない弟。
「そういう貴は英語は慣れたの?」
その日は彼らにとって大切な人の命日で、次男は急遽留学先から帰国した。
「Sorry, not sorry. You know, I'm also quarter American.」
(お生憎様。俺も四分の一はアメリカ人なんでね)
「ハハ、そうでした」
長男も仕事は続けていたが、陵南では非常勤になった。
それでも日本と祖父の病院を行き来しながら慌ただしい毎日を送っていた為、
こうして兄弟揃って会うのも実に久しぶりのことだった。
しかしながら どんなに忙しくても気まぐれでポジティブな彼のことだから、
「身内の病院だとフレックスで楽」ぐらいにしか考えていない。
「線香そこじゃねー!つーか、何で両サイドに火点けんだよ!」
暫く合わないうちに余計に沸点が低くなったんじゃないかと人事のように思う兄の視線に、
墓石を懸命に磨く弟は気がつきもしない。
その背中を見ながらポツリともう一人が呟く。
「貴弘くん、牛乳飲みなね…」

