「忙しい奴…」

「え?」

「アイツに振り回されて、一喜一憂しすぎ。だったら、俺にしとけば?」

…ん? 今、さらっと凄いこと口走ったよ、この人。

「貴、あと少しで上がれるから待ってて」

ノック音がして渦中の人物が顔を出す。

…が、それだけ伝えるとすぐに行ってしまった。

「ほら、見ろ。お前が「貴といたい」って言えば俺もあれに振り回されずに済むんだよ!」

兄が出て行った扉を見つめながら弟が不満をぶちまける。

そういうことか。

「…デート?」

「冗談。夜勤明けで国際免許取り立て絶叫マシーンの試運転に付き合わされるんだよ…」

「どこに行くの?」

「知るか。でも… バカでかい花束予約させられてたから粗方、どっかの美人のとこだったりしてな?」

次から次へと浮上する女性の影に、あたしは気が気じゃなかった。