「で、返事はもうしたわけ?」




右手にした指輪をいじりながら聞いてくる柏木。



もちろん指輪も校則違反だが、柏木いわく「校則は破るためにある」。どこのヤンキーだお前は…。




「…いや、してねーよ。返事する前に、矢野走ってどっか行っちゃったから。でも…」




当然、断るに決まってる。だって矢野のことそういう目で見たことねーし。
そう続けようしたのに




「じゃぁさ湊!」




突然、柏木がしめた!とでも言うようにニヤッと笑って、俺の肩に腕をまわしてきた。




そうしてまるで悪戯の計画を耳打ちするみたいに囁く。





「試しに付き合っちゃえよ☆矢野と」




「…は?お前…何言ってんの?」




ジロッと睨むと、楽しそうに瞳を輝かせる柏木と目があった。




「どーせ湊、まだあの幼なじみちゃんのことが好きだから。とか言うんだろー?」



「…別に、だからもう、やめるって…」



「なら今すぐやめろよ」





柏木の腕の力が強まる。





「それが出来ないんなら、諦める努力をしろっつってんだよ。
恋を忘れる度には、新しい恋!だろ?」



「いや、だろ?って言われても…


第一、それ矢野を利用するってことだろ?


そんなの矢野に失礼…」




「始まりは何でもいいんだよ。
付き合ってるうちに、好きになるかもしれねーだろ?矢野のこと」




「…………」





黙っていると、「はぁ…」と大袈裟にため息をついた柏木が俺から離れて、頭の後ろで腕を組んだ。




「…ほんとは分かってんだろ。バカかよ」



「…何が」



「お前には無理。一人の女の子にず~っと執着して諦める・やめるばっかの口だけ野郎にはお試しに女の子と付き合うとか絶対無理だから~」



「…じゃ何で言ったんだよ」



「別に~。意味はないけど。あ、つーかお前漢字の追試、また不合格だって」




「また!?」




「さっきノリちゃんに会って、渡しとけってさ」





ヒラリと、柏木が俺の漢字の小テスト(追追追試)を机にのせる。



そこには赤ペンで大きく“3”と…




下には、ノリちゃんらしい、男っぽいデカデカとした字で





“お前、諦めてるのか?
諦めるな!!”




と書かれていた。






“諦めるな”か…。






…正直、漢字は諦めたい。





…でも、やっぱり、俺は…。