「あれ」 思い出しかけた記憶は、神谷くんの声に再び遠く霞んだ。 「どうしたの?」 神谷くんの視線を辿ると 前方から歩いてくる男女の姿。 一誠と…あの、カフェで会った 矢野さんだ。 「あ!」 一誠が気づくよりはやく、矢野さんがあたし達を見て声をあげた。 「夏樹!」 そして明るく駆け寄ってくる。 「高倉さんも、どーも」 「あ…どーも」 軽く会釈しながらチラ、と一誠を見れば …なぜか、無表情の一誠。 でも、あたしと目があうと、途端にまたあの胡散臭い笑顔を浮かべた。 …うげ。