「やっぱり私って天涯孤独な薄幸の美少女……」
まだ訳の分からないことをブツブツ言っているこいつに、俺はもう完全にシカトしていた。
「あっ、はむちゃんのお家!」
そんなどんよりした雰囲気の中いきなり大きな声を出されて、びくっとする。
さっきまで泣き真似をして俯いていたのに、急にぱっと顔を上げてそう言った。
「ちょっと、寄ってもいいですか?」
楽しそうに近くのペットショップを指差しながら、俺の服の袖をくいくい引っ張る。
……うんざりする位の、切り替えの早さ。一体こいつの思考回路どうなってんだ。頭かち割って見てみたい。
「ありがとうございましたー」
ネズミにファンシーなピンクの家を買って上機嫌な仁菜。
するとレジ前で俺をじっときらきらした目で見上げてきた。
その意図が分かってげんなりしながら、ネズミの家を持ってやった。
「彰人さん、フシダラな者ですが、どうぞよろしくお願いします」
それを言うならフツツカ者だろう……。
金曜の夜やっている長寿アニメに出てくる幼稚園児レベルの言い間違えだぞ。
改めてそう言って頭を下げられた。
仁菜という女は、成人してるはずなのに見た目も性格も子供じみている。
……あぁ、頭がクラクラする。
当直明けで疲れ切っているせいか。
そこに加えて、まだ6月だというのに夏本番とばかりに太陽が煌々と照っているせいか。
ははは、分かり切った一番の要因がすぐ近くにいるじゃないか。
天然ボケと言えば少しは可愛げもある。
しかし、彼女はそんな可愛いもんじゃない。
21という年齢にしては頼りなく、四六時中脳内がお花畑な彼女。
これが彼女との全ての始まりだった。
そして、そんな彼女に振り回される日々がこれから待ち受けている。
だけどそれも長くは続かせない。
ぜってー、すぐに追い出してやる……。
にこにこしながらへったくそな鼻歌を歌う彼女を横目に、俺はそう意気込んでいた。