「クソ、ダリーな。」



口を吐いて出た悪態は誰もいない廊下に落ちる。



いつだって素を出すとき、周りに人はいなかった。



だから本音を出して人を傷つけた事もなかったし、そもそも本音なんて言っ



たことはないんじゃないだろうか。



第一、周りから俺の心の内を求められた事なんてなかった。



だから俺は、いつも外側から世界を見つめて、冷静に、迷いなど無く、" 俺 "



を演じ続けてきた。



自分の味方は自分しかいない。



他人に弱点など掴ませない。



仮面を被ったままの生活に苦しくなるときだってあったけど、今更何ができ



るっていうんだ。



この仮面が、…俺だろ?



「ッチ。」



思考に溺れそうになって舌打ちをする。



いつも現実を見ていれば。



現実さえ見ていれば。



どうにかなるんだと、思っていた。



―それが間違いだと気づくのはもっとずっと先の、別の話だ。