階段から転げるようにして落ちていく彼女までの距離が、無性に長く感じた。




中腹にある踊り場で、動かなくなった花音の傍に夢中で駆け上がり。






「はぁっはぁっ…」





乱れた呼吸もそのままにしゃがみこむけれど、一瞬、触れるのが躊躇らわれた。






だって、もし。



もし、息をしてなかったら?




確認するのが怖くて、身がすくんだ。





もし、あんたも、居なくなったら。






そう考えるだけで、目の前が真っ暗になりそうだった。








「花音…」






それでも、そんな考えをどうにか振り払い、震える声と手で、そっと触れると、彼女の頬は温かい。



意識はないようだが、口元からは、小さく呼吸しているのが感じられる。





「よかっ…」






安堵したのも束の間。



抱き起こそうとした彼女の額から鮮血が滴った。




それを見た瞬間、どうしようもない感情が暴れだす。





―嫌だ。




嫌だ、嫌だ。





最後の別れ際の彼女の姿が目に浮かぶ。




あんなに泣かせたまま。



あんたと離れたことが、今もまだ苦しくて仕方ないのに。





会いたくて、仕方なかったのに。




あんたも。



俺の前から居なくなるの?



俺だけを、残して。