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生温い風に、一瞬自分の感覚がおかしくなったのかと思った。




ちょうど今思い返していた出来事が、冬の真夜中だったから。




ひらひらと風に吹かれて落ちていく桜の花びらを見て、春なのだという現実(いま)を突きつけられる。



飛んでいた意識を戻された俺は、店の前に着いていたことに気付く。



CLOSEDの文字を横目で確認してから、慣れた動作で施錠を外すと、真っ暗な店内に入った。




隠れ家的なこの店には名前が無い。



そもそも看板を出していない。




店内の照明を部分的に点けると、辺りが仄かな色で照らされた。



時計を確認すると、あと少しで約束の時刻になる所だった。


それまでと、カウンターの端に腰掛けて、咥えたタバコに火を着ける。



天井に上っていく煙をぼんやりと見つめた。





―人は時に正義という言葉を、自分のしたことやすることの、大義名分として掲げ、真実がどうかなんて、知ろうとしないもんで。



自分達の持つ正義が、果たして本当に正しいのかすら、考えるのをやめた。



突き詰めて行けば、必ず過ちがあると、わかっているからだ。



「人間の正義なんか、とっくの昔に汚れてる。」



だから、俺も、変わらない。