俺の提案を聞いた後、男は俯いて暫くの間黙っていた。





「…俺が、彼女の会社からの立場を失くすよう…手助けするってことですか?」



やがて迷うように訊ねた男に、俺は大袈裟に手を振って見せた。




「まさか。違うよ。失くなったかのように、見せかけるだけ。一応本当にやらないと、どこからぼろが出るかわからないからね。」




君は、その歪んだ正義を、振りかざせばいい。




「それに、これからは、君が、彼女を守ればいいんだ。直ぐ傍で。君にはそうする権利がある。」





「…でも…」




渋る男には、やる気にさせるスパイスをあげようか。


俺は残念そうに眉を下げて。




「零は君の妹さんが死んでくれて助かったと思ってるんだから。零が憎いでしょ??」




発した言葉に、男ははっとしたように顔を上げた。




「で、でも…彼女を傷つけるなんて…」




「何言ってるの。義を通す時は必ず代償が必要でしょ?君の妹さんも、きっと零を止めてほしいと思っている筈だ。これ以上辛い思いをする人間を増やさないように。さっき言った事をやってくれたら、後は俺が零を繋いであげる。そしたら零は完璧足を洗えるよ。皆ハッピーエンドだ。ねぇ…」






冷たくて速い風が、俺と男の間をひゅっと通り過ぎる。





「そういうのを正義って呼ぶのかもしれないね?」