詐欺師の恋

話を聞けば、同じ会社の噂の絶えない女に恋をしていて。

冬の初めに新しい噂が流れて。

それがどうも兄だったらしいということになり、噂は一度一掃されて。


けれど、どうも女の様子を見る限り。

不毛な恋に心を焦がしているようにしか見えない。

辛い想いをしているようにしか見えない。


だけど、手を伸ばすことはできないまま、時間が流れて。


仕事納めの夜。


会社を出る所で、彼女が誰かを待っていた。


複雑な気持ちのままで、そんな彼女を見つめていると、彼女の携帯が鳴った。




そして、彼女は嬉しそうに笑い、空生の名前を呼んだのだと言う。




「まさか、またあの名前を聞くとは思わなくて…。でも、兄っていう話が嘘だとしたら…相手があいつなら…辻褄が合う。」





ほぼ無意識で、気がついたら、ここまで来ていたのだという。




―ほんと、温室育ちのふざけた女だ。




聞きながら、俺はあのほやほやとした女の顔を苦々しく思い出した。



あーいうのが、一番厄介なんだ。



周りを見ることができない阿呆。

自分が、相手を陥れてることに、気付かない。


いつもだったら、こんな話一蹴して、馬鹿馬鹿しいと振り切る。


証拠も確証もない。

ただ、経験者だからこその勘が、働いただけのこと。


今回に限っては、俺にとって好都合だから、利用させてもらうけどね。