詐欺師の恋




「ただの黒だったら良かったんだけど。あいつのことは、俺、よく事情知らないから、ごめん。」





すれ違い様、トシヤは俺に謝罪の言葉を述べて消えた。



俺は無言でポケットから煙草を取り出し、口に咥える。



いつだったか、怒りで理性を見失い、俺に掴みかかろうとした人物は、あの頃とほとんど代わり映えしないように思える。



但し、記憶が大分おぼろなので、定かではない。



クラブの入り口から少し外れた場所に佇むその男に、ゆっくりと近づくと、俺は口を開いた。






「…折角のご来場、大変申し訳ないんだけど、君をルナに入れる訳には行かないんだな。理由はわかるよね?」





「わかってます。」






やけにはっきりと即答されて、やはり俺の勘は当たっているのだと確信する。






「じゃ、どうしてここに来たの?」





理由はきっとひとつだけど。




芝居がかった自分の声に心の中で笑う。





「……ひとつだけ、教えてください。あの男…ここに、戻ってきたんですか?」





「………俺がそれに答えると思う?」




考えるような、訝しがるような間をたっぷり空けて、訊き返すと、男は小さく笑った。





「いや、、答えはいつも、くれないですから。」