「櫻田から、あの男を引き剥がしてやりたかったんだ。」




藤代くんの口調には、憎しみが宿っているように聞こえる。




「…それって…?」




今度きょとんとするのは、私の番だ。


そのせいで、私からはさっきの毒気がすっかり消えてしまった。



中々止まない春風が、再びざぁっと吹いて、私の髪を揺らし、藤代くんのコートを揺らす。



植え込みの傍に立つ電灯が、ちらちらと途切れた。




「あいつから、大切なもんを奪ってやりたかった。」





ああ、どうしよう。


頭が混乱してきた。



変な汗が、背中を伝う。




「何を、、言ってるの…?」




唇が、乾く。




「詐欺師に、幸せになる資格はない。」





きっぱりと言い切った藤代くんとは反対に、私は眩暈を覚えた。





間違いない。




藤代くんは、中堀さんの、正体を知っている。





「俺は、あいつの羽をもいだんだ。」




晴れ晴れした声色と相反して、藤代くんの表情は傷ついているように見えた。



私はそんな藤代くんを前に、何故だか返せないままの鍵のことを思った。





あの鍵が。



知らなくても良い事実の扉さえも、開けてしまったような。


そんな不思議な感覚に、陥っていた。