詐欺師の恋


「藤代くん…」





グレイのトレンチコートのポケットに、手を突っ込みながら、いつの間にか藤代くんは私の少し後ろに来ていて。



飯山を見る険しい表情に、妙な胸騒ぎを覚える。




「おー、コワ。…今日は、もう行くわ。じゃーな、櫻田。」




私の傍で、飯山はそう言い残して、会社に戻っていく。




すれ違い様に藤代くんに何か呟いたようだけど、間が空いているから、聞こえなかった。





「・・・・」




飯山が立ち去って、藤代くんは再び私を見るが、私は居たたまれないような気になる。




心臓が嫌な音を立てている。





正直、飯山の言動のせいで、自分の中に良くない考えが起ころうとしている。





そうじゃなくても、私は藤代くんに確かめなければならないことがあった。





―でも、まさか。




何も言葉を発せずにいると、藤代くんがゆっくりと距離を縮め始めた。




私はそんな藤代くんの顔を見ることが出来ず、代わりに視界には藤代くんの足と道路が映っている。