詐欺師の恋

春風にしては生温い風が、気味悪い。



私はごくりと生唾を飲み込んだ。




「…拾ってくださって、ありがとうございます。」




飯山の問いには応えず、差し出されたストールを受け取ろうと手を伸ばす。


が。





「っ?!」





「まぁ、待てって。」






引っ込められたストールに、思わず眉間に皺を寄せると、飯山が宥めるような口調で、空いている片手を挙げて見せた。




会社帰りの人間が、ちらほらと行き交う中、私達は暫くお互い見つめ合う。



入社当時、飯山の事は、面倒見の良い、お調子者の先輩としか映らなかった。



けれど実際は、結構な遊び人で、悪い噂もなくもない。


というのは、大半は、風の噂くらいなもので、事実と結びつく話はどうしてか無かったからだ。



怪しいのはわかっていた。



気をつけなさい、との言葉もあった。



それでも、そのままの関係に甘んじたのは、私がただ単に寂しかったからだった。後も先も考えていなかった。


飯山自体も、同類の人間だった。



どうして離れたかと訊かれれば。



ただ、何もかもが、致命的に合わなかったと答えるしかない。




飯山は、人をモノとしか思わないこともしばしば。


関係を持つ女は不特定多数。



だから、飯山と付き合っていたのは、ほんの一週間、とか。




その程度だったんじゃないだろうか。



付き合う、付き合わないという言葉自体、そもそも無かった。



自然消滅に近い。



なのに、顔を合わせば、飯山はやたらかまって来るのだ。




安い女として。