詐欺師の恋




勿論冗談でもなんでもないらしく、直ぐに距離を取った俺に見向きもせず、ミサキ兄はミサキの腕を掴んだ。




「―帰るぞ。」




立ち上がらせるようにして、ぐいっとひっぱったために、ミサキはよろけながらスツールから離れた。




「ちょっと!!!」




だが、ミサキはカウンターにしがみついて、激しく抵抗する。




「私、帰らない!今日は、帰らないから!」




ミサキは芯が強そうな、しっかりした子だという印象だったから。



こんな風に激高する姿は珍しい。



俺は興味深くそれを見守る。




どうやら、兄貴はミサキのことを心配してここまで追いかけてきたらしい。



説得しようと試みているが、ミサキは首を縦に振らない。


だが、兄貴も譲らない。



その内、ミサキが零のステージだけ見たら帰るようなことを提案すると、兄貴も渋々了承したようだ。




ミサキは直ぐ様、ステージに視線を送り、兄貴にすら背を向けた。



それを力の抜けた様子で見つめる兄貴に。






「ミサキちゃん、随分入り浸り、だよー」





過保護な、兄ちゃんに。




忠告してあげる。