詐欺師の恋

「初めて会った時、私言ったでしょう?女の子を迎えに行ってっていうなんて、初めてだって。いつもカノンに対する零の態度は特別だった。確かに、ライブの時にカノンを抱き締めたのは、いつものパフォーマンスかなって思ったのは否定しないけど。でも、あの時もちゃんと迎えに行ったじゃない。」





「迎え?」





ぐすぐすと鼻を啜りながら、涙で滲んだ目をメリッサに向ける。




「そう。迎え。」




メリッサは力強く頷いた。




「ファンの仕打ちが余りにもひどいんで、裏口から外に出すのも待ち伏せされて駄目だし、スタッフルームだと押しかけられる可能性もあるから、屋上に隠すのが恒例になってたんだけどね。今まで一度として、零は迎えに行った事なんて、なかった。」




ぱちぱちと瞬きすると、涙が弾かれて、ぼけていた視界が開かれる。





「利用するだけして、さよなら、なの。自分のせいでどうなっても構わない、そういう男なのよ。だから、迎えに行ったのは、カノンが初めてよ。」





メリッサに言われて、あの日の光景が、私の中に甦った。





「…そういえば…スタッフ達が驚いて…」





お姫様抱っこにだけ驚いているのだと思っていたけれど。





「当たり前よ。ヒスを起こす女の面倒をいつも見てるのはうちらなんだから、覚悟してた筈だし。…だから―」






少しの間、考えるように空を見つめたメリッサの視線が、私に戻ってきてピタリと止まる。





「あの日の零がとった行動は、パフォーマンスでもなんでもない。本当に、ただ、カノンを抱き締めたかった、それだけなのよ。」