詐欺師の恋

カタ、と音を立てて、目の前に置かれたコーヒーカップを前にして。




そういえば、私はコーヒーが飲めないんだったと今更思い出す辺り。




どれだけ阿呆なんだか。




下心ありありだった、ということか。




心のどこかでまだ、中堀さんに会えるような気がしていた。




ここに来れば、当たり前に居るような気がしていた。




それで、少し、心があらぬ方向へと飛んでいた。





―ほんと、私って馬鹿…






込み上げて来るものを飲み込んで、我慢するけれど。








「-カノン??」





名前を呼ばれたと同時にぽちゃん、とコーヒーが跳ねる。





「ごめん、コーヒー苦かった?」




メリッサは勘違いして、口を付けてもいないコーヒーについて謝った。




勿論、私としては、コーヒーが跳ねたわけじゃないことを知っている。






「って、え?!やだ、泣いてるの?」






目から零れた涙が、コーヒーの水面を揺らしたということを、よく知っている。






どうして、忘れていたんだろう。




中堀さんは、いつも、そうだ。





私の手をするりと抜けて、何処かへ行ってしまう。




いつも。





私は貴方を追うのが、遅すぎる。