詐欺師の恋

私は戸惑いを隠せないまま、後ろ髪引かれる思いで、タカに背を向けた。




「ありがとうございました…」




結局、呟くようにそう言って、地面に積もることなく溶ける雪の上に降り立った。




途端。








「…空生は、零(ゼロ)に戻っちゃったよ。」








後ろから掛かった言葉の意味を、一瞬、理解できなかった。






外に出た所で、私は振り返る。


冷たい風が、氷の粒を含みながら、私の頬に当たった。






「それって…」






車内から私を見上げるタカは、にこりとも笑わずに、ただ切なげに瞳を揺らして。






「俺達も、元通りだ。」







皮肉だな、と力なく口角を上げる。







「他人を身に着けてない時だけ、空生は、空生だった筈なのに。」







私は、その場に固まったまま、言葉を紡ぐことができない。


そんな私を、タカは少し苦しそうに目を細めて、見つめた。








「なぁ、カノンちゃん…空生が詐欺師じゃない時にした恋は、後にも先にもカノンちゃんだけだよ。」










ただ、ただ、静かに、切なげに、けれど、しっかりと、タカは私に伝える。



そして、私の返事も反応も待つ事無く、出してください、と、運転手を振り返った。








無情にも思える、タクシーのドアがバタンと閉まる音がして、目の前から消えても。






雪が、どんなに冷たくても。





風が、どんなに私を引っ張っても。







私は、そこから、微動だにできなかった。