「俺が、忘れさせてやるから。」
そう言った藤代くんの眼鏡越しの瞳は、いつもの彼からは想像できないほど熱を帯びていた。
私はただ呆然としながら、間近にある藤代くんを見つめる。
雪は強まることも、弱まることもなく、二人のコートや顔に触れていく。
「…今すぐは無理でも、俺が櫻田の傍に居るから、だから―」
「カノンちゃん?」
私の肩をしっかりと掴み、藤代くんが言いかけた所で。
私の名前を呼ぶ、ほんの少しだけ、懐かしい声がした。
おかげで停止していた私の思考が、弾かれたように動き始め、身体も同様に反応する。
藤代くんの手から力が抜けたのにも気付き、私は道端で立ち止まってこっちを見ている垂れ目の男を振り返った。
「…タカ?」
私達の方はちょうど暗がりだが、タカは電灯の下にいて、はっきりと見えた。両手に華で、女の人が二人、一緒だった。
「やっぱり!なんか、ちょっと声が聞こえて、カノンちゃんかと思って、呼んじゃったんだよねー!こんなとこで何してんのー?」
タカは相変わらず軽い感じで、私達に向かって歩いてくる。


