詐欺師の恋

なのに。





「………」






花音は、力なく、その手を下ろした。




そして。




雨足が強くなる中、俺の目をぼんやり見つめる。




濡れてしまった髪から滴る水滴が、頬から首筋に伝って服に染みていくのに、それすらも気付かないように、ただじっと視線を絡める。




時間にしたら、数秒のことなんだろうけど、ひどく、長く感じられた。




それから、ゆっくり瞼を閉じて、次に開いた時には、もう俺を見ては居なかった。





―だから、夜明けは嫌いなんだ。




小さな背中が、来たばかりの道を引き返していくのを見ながら思った。




余計なものが見えてしまうから。





暗闇の中でなら、誰かを傷つけても、わからないのに。




泣かせたくない女(ひと)が。




目に涙をいっぱい溜めて、それが零れないように唇を噛んで。





睫毛を伏せた時に、雨とは違う滴が落ちる所なんて、見なくて済むのに。







「っ…」





姿が見えなくなったと同時にこみ上げてきたものに、咄嗟に裏口の戸を閉めて、その場にしゃがみ込む。



声が漏れないよう、きつく手を当てて。





涙なんて、流した記憶はないよ。



まして、誰かを想って泣いたことなんて、一度もない。





ほんと、あんたと逢ってから。




初めてのことばっかで、嫌になるよ。