詐欺師の恋

「…?」





階段を上りきった所で、足取りが遅くなる。




花音の部屋の前に、人影が見えたからだ。





「…中堀さん、ですね?」







暗がりから、月明かりの下まで出てきた眼鏡を掛けた男に、見覚えはない。







「…誰?」





「初めまして、じゃないんだけど。俺、藤代って言います。」





藤代と名乗った男は、挑戦的な視線を向けてくる。






「櫻田、今日会社で熱を出して、倒れたんです。」





「!」




「今、櫻田がどんな目に遭ってるか、ご存知ですか?」






驚いて反射的に部屋に向かおうとするのを、男の言葉によって遮られた。





「…どういう意味?」





「貴方が吐いた嘘がばれたんです。」





藤代という男の言葉の意味を、一瞬理解できなかった。






「貴方が櫻田を利用する為に吐いた、嘘がね。」






俺の反応など構わずに、藤代はミリタリーコートのポケットに手を突っ込みながら、静かな声で淡々と話し続ける。






「ただでさえ櫻田は会社で良い様に利用されてきた。貴方が兄として登場した時はある意味で会社での悪い噂を払拭するものだったようですけど―それが覆った今、事態は更に悪くなった。櫻田は売女扱いです。」





北風が、アパートの灯りを揺らした。