詐欺師の恋


「帰る!」




高いヒールを履いてなくて良かった。




上手い捨て台詞も何も思いつかないまま、ついて出た単語だけぶつけて走ったから。




空は晴れていたのに、真っ暗で。



新月なのか、月さえも見えなかった。





「っはぁ、はぁ…」





若くない、と思うのは、走ると直ぐに息切れするから。




駅の光が見えた所で、減速し、最終的にとぼとぼと歩いた。




藤代くんが追いかけてくるかしらと少し心配になったけど、よく考えたら藤代くんは車なんだった。



会社に置いてあるんだろうから、本当に偶然居合わせたあの場所で、私を守るために、合わせてくれたんだ。





そう思うと、溜め息が零れた。



喉に何かがつっかえているような、嫌な気分だ。





「あ―」




鞄の中で携帯が震えたのが伝わって、さっきの着信を思い出した。





「誰だったんだろう。」




表示を確認すると。





「!!!」




中堀さん、からだった。