詐欺師の恋

そうだ。



中堀さんは、ここに来る時には中堀さんじゃなかった。



黒髪の、スーツの、素敵男子。




金髪の、パーカーの、美青年とはちょっと違う。






「大丈夫かな。」





中堀さんが、佐藤一哉に戻らない限りは、バレることはないと思う。


まず同一人物だとは思われないだろう。



それほど、中堀さんの仕事は完璧だった。




だけど。。。




息切れしながら、最後の一段を下りて、また頭が悩みだす。






噂の発端がわからない限り、気楽に構えている訳にはいかない。




中堀さんのことを本当に知っている人ならば、金髪の中堀さんを知っているだろう。





そうなってくると、断然分が悪い。






―暫く、会社近くで会うのはよしたほうがいいって言っておいた方が良いな。





心の中でそう決めて、階段側から会社のゲートに向かった。





受付はもう居ない。



定時で帰らずに、時間をずらしたのはこのためでもある。




―でも、無駄に心配かけたくないから、噂のことは黙っていよう。




自動ドアを通り抜ければ、冷たい空気が頬を刺す。







「寒い…」






私は臙脂色のマフラーに顔を埋めて、コートのポケットに手を突っ込んだ。