そ、そうだった。
危機を脱したにも関わらず、冷や汗なるものは流れていく。
がらんとした更衣室に、私はひとり、額に手をやった。
中堀さんから直接私の兄だと言われた人が、社内には二人いる。
それが、受付の泉川と、お局椿井だった。
「コホ、コホ」
まだ、退いてくれない痛みが喉を刺激する。
「…あー、、どうしよ…」
状況はひどく厄介なものになっている。
こじれ過ぎている。
まぁ、噂なんて、大体そんなものだけど。
ただ、中堀さんの名前が、本名がここまで知れ渡るとは正直思って居なかった。
彼は完璧部外者だ。
それに、彼だって人に知られたくは無いだろう。
「椿井さんが信じてくれててもなぁ…」
着替えを開始しながら、ふぅと溜め息を吐く。
受付の泉川の視線から察するに、彼女は信じていないだろう。
私が何か言われるのは、まだいい。
だけど、このことで、中堀さんに何かあったら嫌だな。
トートバッグを肩に掛けて、更衣室を出た。
「あ。」
人に接触するのを避ける為に、階段で降りている途中、あることに気付く。