詐欺師の恋

あー駄目だ。




なんか、藤代くんと一緒に居ると、緊張してしまう。





中々上手く声が出せない。




私はコートの中に手を突っ込んで、ひたすらブーツの踵を鳴らすことに集中していた。






「どっか、行った?」






「…実家だけ。藤代くんは?」





「どこも。」






つ、続かない。



この話を振ったのは、藤代くんなのに。





「ま、またまた~、そんなこと言っちゃってー。藤代くん、彼女とどこか出掛けたりしたでしょう?」





そうそう、藤代くんはモテた筈だ。




「今、居ない。」





「………」




しまった。




なんか、埋まってた不発弾、見つけちゃったような気持ち。



藤代くんの、横顔を盗み見ても、感情は読み取れない。鼻が赤い、それ位が良いとこだ。





ぎくしゃくとした空気を纏いながら、それでも何とか会社に辿り着いた。





自分だけで歩くなら駅から会社まで早いのに、今日は何故かすごく長く感じた。


見慣れた会社は久々とはいえ、この状況だと何故か落ち着く。




複雑な心境のまま、自動ドアを抜け、挨拶しながら受付の前を通る。