詐欺師の恋

『帰りなよ』




後ろからかかった声に振り返れば、中堀さんがソファに腰掛けて私を見ていた。


まだ半笑いな所が、腹が立つ。





『だって…』



『俺は、大丈夫だから。』




私が言いかけた言葉など、分かりきっているというように、中堀さんは頷いてみせた。





『花音が居てくれて、俺は帰れたから。だから花音も帰ってやって。』





『……ずるい』




『え?』




私はぎゅっと唇を噛んで俯く。


わかってないな、中堀さんは。




そんな風に言われたら、帰らなくちゃいけないじゃない。




確かに、中堀さんを、あの家に独りきりにしてしまうのが心配なのもあるけど。




でも。




そんなの関係なく。




ただ、一緒に居たいって、思うのに。






折角、掴めた気がしたのに。


今直ぐ、引っ張らないと、しっかり、掴まないと、次のチャンスはないかもしれない。






『…花音、こっちおいで』






複雑な心境を上手く消化できないでいる私を、中堀さんが手招く。




渋々、傍へ寄るけれど。



中堀さんは私を見ているのに、私は中堀さんを見れないで居る。




目に映るものはといえば、絨毯、だ。



何を言われるんだろう。


何を言われても私は絶対に納得しないんだから!




そう、思ったのに。







「!!」






一瞬の出来事だった。



何の前触れもなく。



唇が、唇と、触れ合った。