詐欺師の恋

『笑い事じゃありませんっ!』




抗議の声をあげるけど。




『!?』




突然浮いた自分の身体に悲鳴すら出なかった。





『おお、降ろしてくださいっ!』




『動くなよ、落とすぞ』




『!!!』




降ろすのと、落とすとのじゃ違いすぎる。



これは、えっと、俗に言う、お姫様抱っこ、という奴で。



私、重たいのに、中堀さんは涼しい顔をしている。



こういう時、中堀さんは強引だ。



いや、いつもか。





この場合は、観念して、心を無にするのが一番良い。



どんなに恥ずかしかろうとも。





『手、首に回して』





片手でドアノブをくるりと回すと、中堀さんは絨毯の階段をすいすいと下りていく。





あっという間に、受付に着くと、閉店作業をしているスタッフ達が驚きの声を上げる。




穴があったら入りたいとはこの事か。



いっそのこと眠っているフリをしようか。





『帰る』




あろうことか、中堀さんはその場にいるスタッフ達にそれだけを告げると、フロアを突っ切り、スタッフルームへと向かった。





『あの、その、もう、私歩けますから…コート、大丈夫ですから…』





廊下を歩いている時も、必死で伝えるが、中堀さんは完全無視。




でも私はもういっぱいいっぱい。



ちょっと甘めの彼と、その首に回した自分の手。



痺れそう。



そこへ。




『あーーーーー!!!零、何してんだよー!!』





響いた、大声。




これは、ケイの声。