詐欺師の恋

あんな体勢でひっくり返ったんだから、絶対にコンクリに後頭部を打ち付けることになるだろうと覚悟していた。



思わず目をぎゅっと瞑って、来るであろう衝撃に身体を固くするけれど、一向に痛みは襲ってこない。



代わりに。





『…ったく。本当に阿呆だな、あんたは。』







もう定番になってしまった呆れたような、声と。



背中に当たる、コートの感触。


腰にしっかりと回された腕の力。



甘い、大好きな、香り。






『な、かぼ…いえ、えっと、…空生、さん』





しどろもどろになって、そう呼べば、彼は噴き出す。





『何、それ。』






そうして、私を片手で抱き寄せたまま、自分のコートの中へ、少し強引に招いてくれる。






『空生で、いい』





この体勢では残念ながら、彼の顔を見ることができない。





『冷たいね、花音。』





だけど、ぽつりぽつりと落とされていく言葉が。




甘い香りが。




胸を掻き乱して仕方ない。