突然強い風が吹き、俺は思わず目をつぶった。

風がやみ、そっと目をあけるとさっきまで女の子がいた場所には成人男性くらいの真っ黒な人のようなものが立っていた。

隼人「...!?」

全身を墨で真っ黒にしたかのようなそいつはまるでホラーゲームにでてくる化け物のようだった。
そいつはいきなり俺に向かって殴りかかってきた。

隼人「うわっ!?」

俺は反射的に後ろにさがったが、目の前のそいつの手は俺の頬をわずかにかすった。少しかすっただけなのに俺の頬にはただ軽くかすっただけとは思えない切り傷ができていた。そこからつーっと生暖かいものがつたう。俺は怖くなり、その場から逃げ出した。

隼人「はあっ...はあっ...」

俺は化け物から少しでも距離をおこうと学校の中を宛もなく走り回った。だが、化け物はしつこく俺を追い回す。突然左足に痛みが走り、俺は派手に転んでしまった。足を見ると、化け物と同じ色の刃物のようなとがったものが刺さっており、俺の血が制服のズボンに大きなシミをつくっていた。なんとか立ち上がろとするが、足の痛みと走り続けた疲労で体がなかなか言う事を聞いてくれなかった。俺が動けない間に化け物は俺の目の前まで来た。

隼人「っ...」

そして化け物は俺の足に刺さっているものと同じ、変形してとがった手を俺に向かって振りおろした。このままだと死んでしまうかもしれないという状況なのに俺はさっきまでのあわてた気持ちとは対照に、とても落ち着いていた。


隼人「なあ...俺も、お前のところにいけるよ...」


俺は小さくつぶやくと、目を閉じて化け物の手が俺の体を貫くのを待った。

だがいつまでたっても俺の体には何もふれない。

ゆっくりと目を開けてみると、化け物は俺の目の前で手を振りおろしたまま時間が止まったかのように動いていなかった。
よく見ると、その化け物の体のいたるところが後ろから赤い鎖のようなものが巻きつけられており、どうやらそのせいで動けないようだった。

?「焼きつくせ」

突然後ろから誰かの声が聞こえた。と、その瞬間に化け物に絡みついていた鎖のようなものが燃え、それとともに化け物も燃えつき、そして消えた。

隼人「...」

俺は何が起こったのかが全く理解できないまま座り込んでいた。すると、さっきまで化け物がいた背後から誰かが走ってきた。

隼人「...穂那実?」

化け物の背後にいたのは、今いつもの学校の教室で俺を待っているはずの穂那実だった。

穂那実は俺の目の前まで来ると、すとんとしゃがみこんだ。

穂那実「三谷くん大丈夫!?」

いつも落ち着いていそうなイメージの穂那実があわてている様子を見て、俺はさっきまでの緊張がとけて思わず頬がゆるんだ。さっきまで動かなかった体も、少し動くようになっていた。

隼人「あぁ、大丈夫だよ」

俺は大丈夫だと言ったが、穂那実はまだあわあわと落ち着かない。

穂那実「...でも足怪我してるじゃん!保健室で手当てしないと!あっ、と...とりあえずここから出ないと!肩貸すよ!」

穂那実はそう言って俺に手を差し伸べてくれた。俺はその手を掴んで起き上がり、そして穂那実と一緒に鏡の外へと出た。