しょうもない噂と言うものはすぐ消えるものだけれど、
人間の頭とは非常に厄介なものだ。
衝撃が強いものほど記憶に残る。
私は入学式の日…つまり高校初日だな。
その日にクラスで初めての自己紹介をしたのだ。
順番が回ってきてとうとう私の番。
逃げることは出来ないこの状況。
内気な私を酷く呪った。
"自己紹介=みんなに見られる"
だって前の子も、その前の子も
みんなに見られてた。
それに何より最悪なのがこの順番。
私がまさかの最後…大トリなのである。
なぜこうなったのかは決め方にあったのだろう。
名前順に行けばいいものを、担任が面白好きなことからアミダで決定。
しかも順番の直前まで教えてくれない、
超直前指名式のもの。
そんな中非常に不運なこの私は見事一番
最後という大役を授かった。
勿論、この結果には不満がいっぱいだ。
初めみんなはいつ来るかわからないからと不満を溢していた。
でもやはりここは教室、クラス。
様々な子がいるものだ。
私みたいに消極的な子がいれば、
実に積極的な子もいる。
まさにこの子がその例だ。
「皆初めてなんだから楽しく行こうよ!
地味〜に自己紹介するより、ワクワクハラハラした方が得だと思わない?」
…すみません、私は思いません。
残念ながらこのクラスは積極的で、人の意見に流されやすい子が多いようだ。
彼女の一言を境に、みんななぜか張り切った様子でこの地獄の時間が始まった。
まぁそして現在に至るわけなのだけれど
…はぁぁぁぁあ!
もう前の人終わっちゃったよ!
いつ?いつ立てば良いの?
拍手してから?しながら??!
そんなことを考えていると静かな教室に響く私の名前。
「次錦さんよー?」
先生の声が余計に私を刺激した。
…ある意味、ダメな風に。
スクッと立ち上がり深呼吸。
…みんなに気づかれない程度に。
そしてゆっくりと瞼を開く。
「…私は錦 向日葵です。
名前をよく勘違いされるので苗字でお願いします。その方が確実ですから。
中学の頃は……
部活はしていませんでした。
……以上です」
それ意外に何も言うことなんてなくて。
緊張のせいか、笑顔なんて見せる余裕、
到底なくて。
息継ぎもどうやってしたらいいのか忘れるくらい焦っていて。
どうでもいいことばかり、
考えては消して。
そんなことで回ってきた順番に、考えたことの一つも言えなかった。
いや、名前に関しては言ったけど、下の名前で呼ばれたくないと言っているみたいだと今更気づいた。
そして頭の中真っ白で、何も話題なんて
浮かばなくて。
長い沈黙の中、出した答えは"以上です"
中学の頃は嫌な思い出があるため余計暗くしてしまうと判断し断念。
結果、
こんな状況になってしまったわけだ。
前の人たちが特に面白い…というか、例のあの積極少女だったことも手伝ってか
温度差が激しかった。
もうなんか…泣きたい。
パラパラとした呆気に取られたような疎らな拍手をBGMに、そう思わずにはいられなかった。

