桜が満開のこの季節。
ひらひらと花びらが舞う土手を、少女は歩いていた。

手付かずの漆黒の長髪が、風に揺れる。
顔立ちは悪くは無い。
けれど、絶倫の美女、と言う程でも無い。
大きめの瞳は虚ろで、何処か、遠くを見つめていいた。


時折、右手にある川をチラリと見ては、溜め息を吐く。


「どうして…」


溜め息と一緒に零れた言葉。
耐えきれず、彼女はその場にしゃがみ込んだ。


頬を伝う涙が地面を濡らした。いつの間にか、溢れ出ていた涙に、彼女は驚く。


「覚悟…してたのにね…」

そう、覚悟していたつもりだったのだ。
現実から目を背けようと、覚悟したフリをしていただけ。

両膝の間に顔を埋め、彼女は肩を震わせた。
奇声をあげて、発狂したい程、辛い現実を突き付けられた彼女に、声を押し殺して泣く事は、とても辛い。


「…大丈夫…か?」


不意に、彼女の耳に、自分の物とは違う声が、背中ごしに聞こえた。
驚きで、嗚咽がピタリと止まる。

肩越しに、ゆっくりと振り返るとそこには、切れ長の目が印象的の、少年が立っていた。

ブラウン色の短髪に、黒色のブラウスとズボンに、身を包んでいる。
黙り込んでいると

「零」

不意に少年が口を開いた。

「どうして…あたしの名前を…」


不信に思い、少女ー…零はいつでも逃げれる様、涙を拭い、立ち上がった。


「はは。
可笑しな事を聞くもんだな」


小馬鹿にした様な少年の笑い方に、零はムッとする。

「あたし、あんたの事知らないし!あんた誰!?」
叫ぶかの様に零が言うと、少年は困った顔で、頭をかいた。


「あー…俺?
俺はー…あー…」


煮え切らない返事に、零のイライラは募る。


「はっきり言いなさいよ!イライラするでしょ」


先程の涙は何処(いずこ)。
別人の様な零に、少年は半ば苦笑しつつ、はっきりと告げた。



「俺は、

あんた専属の

"死神"だ」