彼は苦しそうな顔のままで、わたしに手を伸ばす。
「引っ張りあげてください」
いいんかな。
ここで、手をとっていいんかな。
「肩、貸して、トイレまで」
苦しそうな彼と目があった。
大きくて、とてもきれいな目だった。
「あ、あの……っ」
大丈夫なんですか?
動かしていいんですか?
そうたずねようとした時、
「あっ、もー! 奥原くん! またやってる!」
わっ、若狭ァァァァァァァァ!!!!!
40半ばの若狭先生がわたしと彼に駆け寄って、「どこいこうとしてたん」とたずねた。
「トイレ、行きたくて……肩、貸してください」
若狭先生は「貸すけどあんた、トイレならすぐそこに職員トイレあるやろ」と、50m先のトイレとは逆方向、保健室から5mもない位置の職員トイレを指差した。
職員トイレ……。そんなものがあったんか……。
今度はほっとして泣きそうなわたしを見て若狭先生が笑った。
「金森さんは保健室入っとき」
「はっ、はいっ」
若狭先生……!
あなたは、神や……!
