突然、話し掛けられて振り向くと、八乙女君も勉強していたのか、机の上には私と同じで数学のノートや教科書があった。
まさか自分に話しかけられるとは思ってなくて、びっくりして固まっている私に構わずに八乙女君は話し続けた。
「実はさ、この問題がわかんねーんだけど、解き方わかる?」
「え・・・」
数学が苦手な私が人様に教えても良いのだろうか。
人に教えたことなんて、今まであんまりなかった。わかりにくかったらどうしよう。
しかもどうして私なんだ。たまたま近くの席だからだろうけど、彼なら他にも友達はたくさんいるだろうし、仲の良い人から教えてもらえばいいのに。
とにかく人と会話すること自体苦手な私が人に教えるなんて無理だ。
大げさに感じるかもしれないけど、過去の経験がそうさせているんだ。
だからこれからは静かに目立たずに生きていこうと決めていたのに。
「ご、ごめん。私もその問題わからないの。役に立てなくてごめんね」
とりあえず早く会話を終わらせるためにも、嘘をついてはぐらかそうとした。
でも、八乙女君は何も答えない。
私は不思議に思い、俯いていた顔をそっと八乙女君に向けた。
