入学から早一年が過ぎ、周囲は完全に

個々のグループを作り上げ高校生活を

楽しんでいるなか、私こと水原雪は

殆ど周囲に溶け込めずにいた。


声を出せず、感情を表に出さないことから

プーぺ(人形)というあだ名をつけられ

若干遠巻きにされている。


学校で接点のあるのは先生か

親友の遥ぐらい。

双子の弟の馨には、あまり学校では

話しかけないよう言ってある。


なぜかっていうと、高校からは

自分の力でなんとかしたかったから。

……まぁ、失敗しちゃってるんだけど。


そんな私が、今……

話したこともないクラスメートに

呼び出されてます…

確か名前は藍田燐君。至って普通の人。

顔を真っ赤にして、私を見たり

下を見たりと忙しそうだ。


「(あっ、これ所謂フラグか)」


なかば諦めたような気持ちで

静かに続きを待つ。


「俺…水原さんのことが……好きです!!」



はいきたー告白奴ーーーーー

物好きか、物好きなのか?

人形なんて言われてる私にどうして?


わかってはいたけど、やっぱり

ちょっとパニックになる。



「その……よかったら付き合って

もらえないかな…?」



おぉう…

どうするべきなんだ?これは

とりあえず、携帯を取り出す。

中には私に変わって音声を発してくれる

アプリが入っていて、つたえたい言葉を

いれると抑揚のない女の子の声が流れる。

エンジニアの叔父が開発してくれたものだ。


「水原さん、それ……?」

『声が出なくて、喋れないからこれ使ってるの』

「あ、そうなんだ……風邪?」

『病気』

「あ……その、ごめん」

『いいよ、そうなるのが普通だし』



本当に申し訳なくなる

藍田君に、こっちのほうが申し訳なくなる。


『で、返事だけど』

「あ、うん!」

『ごめんなさい』


端的にそう言うと、目に見えて

悲しそうな顔をする藍田君。

……なんか私が悪いみたいじゃないか。



「あ……やっぱ、そうだよね。

俺みたいなのが水原さんみたいに

可愛い人が釣り合うわけないしね」

『可愛い?』

「へ?う、うん。結構、噂だよ」


それは初耳だ。

自分の容姿に対してそんなに興味が

ないから、正直他人事みたいに思える。


『そうなんだ……

でも、そういう理由で断ってるんじゃ

ないよ。今はこんなだから自分のことに

手一杯っていうか……

それに、藍田君のことよく知らないし。』

「水原さん…」

『だからその……まずは友達から

っていうか……だめかな?』


そこまで打って、恐る恐る顔をあげると

藍田君は驚いたようななんともいえない

表情をしていた。

それからこくこくと大きく頷き

私の手を取る。



「分かった!俺、がんばるから!」

「……」



何を頑張るのかは分からないけど

とりあえず頷いておく。

すると突然藍田君は顔を真っ赤にして

一気に私から離れた。


「あ、ごめん!いきなり手握ったりして」

『いや、別に……それより、教室戻ろう?』

「そ、そうだね!じゃあ、水原さん」

「……?」

「藍田燐です。これから、よろしく!」



そう言って差し出された手に驚きつつも

藍田君の屈託のない笑顔になんだか

こちらも笑ってしまう。

すこし間をおいて、私も同じように

手をだした。



『水原雪です。よろしく』