夢の中で、私は何かから逃げていた。
手には、冷たい何かを掴み後ろから這いずるような何かが追ってくる。



怖い




怖い怖い怖い・・・






何かに、飲み込まれる。このままじゃ、一生光の浴びる場所へ行くこともできなくなるかもしれない。一人ぼっちになるかもしれない。そんなの・・・それだけは・・・・
























目を開けると、外はアカネ色に染まっていた。
雲をオレンジ色に染めて、カラスがどこかへ飛んでいく。空を見つめれば、太陽が山の中へ消えていく。





「お父さんとお母さんは、心配しているのかな?」







ふと、そんな言葉をつぶやいた。
名前だけしか覚えていなくても、おそらく私には母と父がいると思う。
二人は、私がここにいることを知っているのだろうか。知っていたら、会いに来てくれないかな?







「・・・きっと、お仕事で忙しいんだよね。うん、そうだよね」









ベッドから上体を起こして、布団を折りたたむ。






それから、机に目を向けるとそこにはホカホカと湯気のたった夕食が置いてあった。







「そういえば、寝る前にあの人が置いていった食事食べるの忘れてた。悪いことしたなあ」







お腹もすいていたので、さっそくテーブルの前に座ってお箸を持つ。
トレーの上には、子魚の焼き物と野菜の漬物。それから白米に味噌汁がある。







「・・・薄い味」









見た目はおいしそうなのに、とても味が薄い。もう、食べているのか食べていないのか分からないほどに。それでも、私は食べていく。やっとこさ食べ終わると、大分お腹は満腹になっていた。








「ふう」









小さく息を吐く。
ここで目を覚まして、まだ半日くらいしか経っていないはずなのになぜだか私はすごく落ち着きを見せていた。自分でもびっくりするほどに。








「でも、なんだろう。とても、胸がざわざわしてくる」








窓を開けて換気をしてみる。
空気がよどんでいるからこんな暗い気持ちになっているんだろうと思い開けてみても、何も変わらなかった。とてつもない寂しさに似た感情が徐々に私の体を駆け巡り、脳を痺れさせた。







鉄格子を手で掴んでみた。









「寂しい・・・」









独り言が反響した。








ここから外に出れない。
病気を治すためとはいえ、私はここから一歩たりとも出られない。出たくても、出られない。
他の子は、きっと外で遊んでいるはずだ。学校にも行っているはずだ。なのに・・・









「・・・」








途端に涙が流れていく。
それから、脳が痺れて頭痛をもたらした。







私はどうやら、極度の寂しがり屋だったらしい。









次から次へと流れてくる涙を止めるすべなんて、どこにもなかった。










「ねえ、君」