目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋のベッドの上だった。
八畳くらいの部屋に、ベッドと机と棚だけの殺風景な場所。

ゆっくりと体を起こして辺りを見渡した。



「何これ‥……」




私の目線の先には、長方形の窓。だが、その外側に直径15センチくらいの鉄格子が組み込まれていた。
ベッドから起き上がり窓を開け鉄格子に触れてみる。それは、ひんやりとどこか冷たく寂しいものだった。なんで私はこんなところにいるのだろう?

いくら、頭を回転させ思考を探っても答えは見つからなかった。



「何も、覚えてない。なんで?」




分からないかとにイライラした。
そして、対照的に寂しさを感じた。





窓を閉めて、ベッドに腰を下ろしてみる。
ギシッとスプリングの音を響かせ、それ以降音が鳴ることはなかった。しばらく私は、考えていた。どうして、私はここにいるのかを・・・・。



覚えているのは、一宮美琴という名前ぐらいだった。
それが自分の名前であることは理解しているが、それ以外の記憶はまるで砂漠のように何もなくサラサラとどこか風にのって飛んでいくようだった。



「私、何も覚えてない。なんで?なんで?」




疑問は不安を煽っていく。




その時、ちょっと前まで鍵がかかっていた扉からガチャリと少し重い音がして扉は横にスライドして開いた。中から現れたのは、白い看護服に身を包み、まるで人形のように微笑む綺麗な女の人だった。





「お目覚めですか?」




「あ、はい」






女の人は、手に持っていたトレーを机の上に乗せる。気品あふれる振る舞いに少しだけ見とれていたが、私は先ほど考えていたことを聞こうと思い女の人に尋ねてみた。





「あの、ここはどこですか?」




「ここは病院ですよ」







女の人はあっけなく答えた。
病院と聞き、少しだけ肩の力を抜いてホッとするけど私にはまだ聞きたいことが山ほどあった。







「なんで私は、病院にいるんですか?」




「あなたは、ある病気でここに運ばれてきたのよ。覚えてないかしら」





「いえ、全く」





「そう。でも、そう落ち込まなくても大丈夫よ。ある程度治療をつづけたら、楽になれるから」






「そ、そうですか。あの、もう一つ聞いてもいいですか?」






「何かしら」









ニコリと微笑みを向けた女の人に、浮かない顔を浮かべた私は見つめた。








「どうして、窓に鉄格子があるんですか?」








女の人の表情は変わらなかった。
それどころか、より一層笑顔が増して少しだけ不気味に思えた。








「それは、貴方が逃げ出さないようにするためよ」




「私が?」





「ええ。あなたの病気は、とても厳しい処置をしなきゃいけないの。その処置する期間が来るまでは安静にしてもらわなきゃいけないの。だから、少し乱暴だけど鉄格子がついてるのかもしれないわね。私も、詳しくは知らないわ。ごめんなさいね」





「いえ・・・」








女の人はそれだけ言うと一礼して、部屋を出た。
出た数秒後に、またガチャンと重い音が聞こえ私はゆっくりと扉に近づきドアノブに手を当て横に引っ張る。







「鍵がかけられてる」








改めて、自分の置かれた状況を整理してみる。



私は、その病気のせいでここに連れてこられた。それを直すには、処置をするまでの期間安静にしてなくてはいけないので、こうして私は拘束されているということか。



だけど、なんで?なんで、私は病気になったんだろう。


今まで、そんな大きな病気にかかったことなんてなかったのに・・・・。







「とにかく、今は安静にしてるしかないよね」








私はもう一度ベッドの中に入り、また目を閉じた。
瞼から見える光の粒に、どこか懐かしさと切なさを感じ少しだけ心の中にモヤっとした感情が芽吹いた。