真っ赤な絨毯。

オーケストラによる美しい音楽。

会場の中心ではタキシードやドレスを着た男女が手を組み社交ダンス。

その上には豪華なシャンデリア。

真っ白の長机にはシャンパンが並べられて。

始めて見る豪華なものに口をぽかーんと開け、見とれている私はどこからどうみても一般人そのものだ。

でも、そんな一般人の私はお兄ちゃんから贈られてきた白いドレスをまとい、派遣されたヘアースタイルさんから髪をまとめてもらい、どうにかこの会場に馴染めている。…はずだ。

「わぁ、由里ちゃん似合ってるわ。綺麗ね。」

「景子さん!」

背後から声をかけてきたのは景子さん。

お兄ちゃんの奥さんだ。

景子さんのドレスは胸元ががっつり開いていて谷間が見える。

私みたいな貧乳はとうてい着れないドレスだ。

「へぇ、案外似合ってんじゃん。豚に真珠だな。」

「へーえ、お兄ちゃんこそ豚に真珠じゃないの。」

結婚する前はいつも学校の体操服着てたくせに、と嫌みのひとつをぶちかます。

「ま、景子のほうがよっぽど綺麗だけどな。」

「もう、あなたったら…!」

お兄ちゃんと景子さんは目の前でイチャイチャし始めた。

私なんて一昨日彼氏と別れたばっかりだってのに。

なんの嫌がらせよ。

「踊ろうか、景子。」

「ええ。」

お兄ちゃんは景子さんの手をとると、社交ダンスの集団の中に入っていった。

仲むつまじいことで。

半分呆れた私はお腹を満たすために豪華な食事が並んでいる長机に歩み寄る。

周りには男女のカップルばかりなのに1人ぼっちの私。

こんな想いするなら来なければよかった。

うつむいて机の上にある食事を見下ろす。

 サワッ…

「きゃっ!」

背中に何かが触れた。

私のドレスは背中が開いているものだから直に肌をさわられて気持ちが悪い。

「なっ!」

「君かわいいね。どこの令嬢?」

「は、はぁ?」

目の前にいたのは金髪の男。

いかにも金持ちで女好き。

なんなのコイツ!

金持ちなのに礼儀がなってないんだから!

「わっ、私は一般人です。お兄ちゃんに連れてこられて…」

「へぇ、一般人!スタイルいいね。ねぇ、俺の控え室に来ない?」

ニヤニヤしながら私の腕を掴む男。

下心丸出しだ。

「遠慮します、、、」

「えー?いいじゃん、どうせ君も俺達みたいな金持ちを捕まえようってやつだろ?」

はぁ?!

ざけんじゃないわよ!

誰があんたなんて!!

「離してください!」

 ズルッ…

 ガシャンッ!!

男の腕を振り払おうと力を入れた私は絨毯ですべってしまい、見事に豪華な食事の並ぶ机を倒した。

もちろんドレスはグチャグチャになってしまい、大きな音に会場の音楽は止まり、大勢の視線が私に集まる。

「まぁ、見て…!」

「みすぼらしい…」

「あの人、一般人よね。何やってるのかしら。」

「誰よ、あんなの連れてきたのは。」

いたる所から罵声の言葉をあび、顔を上げることができない。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

謝っても誰も助けてくれない。

金髪の男は逃げるようにその場を去ろうとする。

助けて…誰か…!!

あふれた涙がこぼれおちる時…

「大丈夫か?」

はっとして顔を上げると小学生くらいの男の子がいた。

小さな手を私に差し出す。

それと共に会場が騒ぎ出す。

「大丈夫かと聞いている。」

「えっ、あ、はい。」

その差し出された小さな手をとり立ち上がる。

「この方は休ませるために僕の部屋に連れて行く。皆さんは引き続きパーティーをお楽しみください。」

そう言うと男の子は私を軽々と抱き上げた。

この小さな体のどこにこんな力があるのかと驚いたが、それよりも私のドレスについた食事の残骸で高そうなタキシードが汚れるんじゃないかと心配になった。

「いいです、下ろしてください!」

「うるさい。」

「だから、下ろしてくださいってば!」

「うるさいと言っている。そんな格好でうろつきたいのか?」

「っ…!」

確かにこんな格好でうろつくわけにはいかない。

「僕は全部見ていた。」

「え?」

「警備員!あの男を追い出せ!」

そう言って男の子が見ていたのはさっき私を部屋に連れて行こうとしていた金髪の男だった。

2、3人の警備員は金髪の男の腕をつかみ、会場を後にした。

「ふん、××会社の馬鹿息子が。でしゃばりやがって。」

男の子は小さな声で呟いた。