「おい!翔平?!」
気づいたら俺は走り出していた。
「すみませんでした。この子、耳が聴こないんです。」
何で俺はこの子を庇っているんだろう。
この子のことをまだ何も知らないのに。
友達でも、恋人でも、知り合いでもないかもしれない、のに。
勝手に身体が動いていた。
「ふ、ふうん。そんなの知ったこっちゃないわよ…も、もういいわ。」
ブツブツ言いながら、食堂のおばさんは去っていった。
「大丈夫?」
俺はゆっくり、伝わるように、そう言った。
彼女はコクッと首を縦にふり、ブレザーのポケットからメモを取り出して文字を書き始めた。
「 本当に、ありがとうございました。」
「 昨日も、急いでてちゃんとお礼言えてなくてごめんなさい。シャーペンも、ありがとうございました。」
メモにはスラリとした綺麗な字でそう書かれていた。
俺は昨日のことを覚えていてくれたのが少し嬉しかった。
