「いつの、間に……」


こんなに近いのに気がつかないなんて…。

こいつは本当に油断ならない。

僕はしっかりと彼に向き直ると、警戒を強めた。


彼は両手をズボンのポケットに入れたまま、ゆっくりと近づいてくる。


「はは、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」


徐々に縮まる距離。

僕はこいつがどんな行動をとっても対処できるように。

決して目を逸らさなかった。



……確かに逸らさなかった―――はずなのに。


「うん、だいぶ溜まってきたね」


「っ!」


気がついたときにはもう。

彼は目の前で、僕の胸元にあるペンダントを吟味するように見ていた。


余裕綽々の表情で、何度か頷きながら。


――それにしても、早すぎる。

気配どころか、動きが全く見えなかった。


ふと5年前のことが頭をよぎる。

あの時も、こいつの動きに全然ついていけなかった。

僕は5年前と何も変わってないのか…?

無力なままなのか…?


「――力が、欲しいかい?」


まるで今の僕の気持ちに答えるような問いかけ。

この挑発的な笑み。

こいつが何か企んでいるのは一目瞭然だ。

そう簡単に頷くわけにはいかない。


「…なんで、そんなこと聞くんですか?」


「まるで俺が何か企んでるみたいに言うんだね。

心外だなぁ…俺は親切心で言ってるのに」


彼は大袈裟にがっくりと肩を落としたような仕草を見せると。

口元を歪ませながら、す、と目を細めた。


「あと3年」


「は…?」


「今の調子でいけば、必要な魂が溜まるまで最低3年はかかるよ」


「嘘、だろ…?」


思わずそんな言葉が口から零れる。


…信じられなかった。

今まで5年もの間、言い方は変かもしれないが。

魂集めをサボったことは一度もない。

むしろ意欲的に取り組んできた方だとも思う。


それでもまだ、3年もかかるっていうのか?