コツン、コツンと靴の音が廊下に響く。
――ここも全然変わってない。
病院を思わせる真っ白な壁と床。
いくつか並ぶ黒い扉。
蛍光灯が光る低い天井。
ここだ…。
突き当たりを右に曲がって、さらに左に曲がって真っ直ぐ行った突き当たりの扉。
ここに、彼女はいる。
僕は大きく深呼吸すると、震える手でカードキーを差し込む。
すると、赤く光っていたランプが緑に変わって。
カチャリ、と中で鍵が開く音がした。
そして、扉が自動的にスライドする。
薄暗い部屋に、微かに聞こえるモーター音。
部屋の中央には、いくつもの管が繋がった先の丸い鉄の棺桶のようなもの。
それに近付くと、コポコポと小さな水音がする。
淡く緑色に光るそれの中には、一人の少女が静かに目を閉じていた。
「……由紀」
優しく少女の名前を呼ぶ。
しかし、当然反応はない。
「ごめん…」
ぽつりと呟いた言葉は、静かな部屋にむなしく響いた。
目の前の少女は、ただ静かに眠り続けるだけ。
「ごめん、な……」
僕は、ぎゅっと唇を噛み締める。
一体、いつになったら目覚めさせることができるのだろう。
――あの忌まわしい出来事からもう5年。
彼女は、5年前とちっとも変わらない姿のまま。
「……もう少し、だと思うから」
僕は胸のペンダントを強く握り締める。
魂はだいぶ溜まった。
あとは、あいつが満足するかどうか…。
「そんなに強く握ったら壊れちゃうよ」
「………っ!」
突如背後から聞こえた声に振り返ると。
たった今思い浮かべていた人物が、口元だけに笑みを浮かべて立っていた。

